心傷
もくもくと湯気が立ち込めるその街は、肉まんの皮のにおいと、剥がれかけの赤の壁、中華鍋で野菜を炒める音で満ちていた。
私は、だぼだぼの服でいつものようにその町へ行って、おかみさんから肉まんをもらったり、道で遊んでいる子供たちの面倒を見たり、鶏の世話をして一日を過ごす。
昼間は埃っぽい町でも、夜になれば赤色の飾り提灯に明かりが点り、つやつやとした真っ赤な町になる。
にんにくと笑い声とお酒のにおいがいつでも五感を刺激する。
屋根に上がると、藍の夜空に星が散らばり、下の町は赤く光っている。
目を閉じてうつらうつらする。
私はこっちにきてからなにも考えていなかった。
ただ毎日、食べて遊んで風景を見ているだけだった。
この毎日を続けられたらどんなに良いだろう。でもそうはいかない。現実はすごい。
あの人の面影を感じる場所にまた戻るというのは、出ていくよりも何倍も辛い。