delcorazon

夕方の空は薄いピンクと紫と水色。

浜辺に建つ、薄紫のシルクでできた、サーカステント。

すぐそばで波打つ海水が甘やかな音をたてて、満ちようとしている。

テントのすこし向こうは、うっそうと繁る南国のジャングル。

ポポポポポ…と何かの生き物が鳴いて、虫の声も響いている。

シダの濃い緑達が、少しもみじろきもせず、じわーーっとその緑を主張している。

サーカステントは、薄紫のシルクのカーテンがたくしあげられ、フリルが何層にも折り重なって、所々、豪奢な宝石がちりばめられている。

着飾った招待客の紳士淑女がテントへと談笑しながら入っていく。

テントの中から、軽快なラテンジャズが聴こえてきた。

招待客の笑い声や食器を重ねる音もが大きくなってきた。

私はハンドバッグから招待状を取り出し、テントの中へ入った。

 

 

 

テントのカーテンのたくしあげたフリルの向こう側の海からの潮風が中にもさわやかに漂っている。

海の果ての夕日が水面を照らしている。空は桃色でちぎられた薄紫の雲がひろがる。

天国のよう。

テントの中は、ラテンジャズと熱帯の立食ディナー。

ヌードピンクのパーティードレスとスワロフスキーのハイヒールの私。戦いのための衣装。

ハイヒールが歩きにくいだなんて先入観、誰が作ったのかしら。

 

紳士淑女の談笑。コンガのきざむリズム。

意識が私の背の後ろに行ってしまったよう。

私はこの場にいるけれど、意識はいない。

私の目的は別にあるのだから。

パーティーに来た招待客とは異質な思想を抱いて。

探している。

あの男を。

目を光らせる私は野生のしなやかな動物のよう。

熱帯のジャズと麗人のジャングルで、シャンパングラスを持って目を光らせる。

その時ふっと、あの人は皆が揃った頃にすこし遅れてやって来るのだわ、と気づいた。

注目をいつだって浴びたがりなのだったわ。

力を抜くと、ボーイにシャンパングラスを預けて化粧室へ。

象牙の猫の彫刻の口紅をハンドバックから出して、唇に塗る。

絶対に舐めてはダメ。

ドレスを太ももまでたくしあげると、太ももに巻いたベルトに刺してあるナイフを確認した。

念には念を。絶対に失敗できない。とても手強い相手。

私は、自分の身体がぞくぞくとするのを感じた。最高の官能。

鏡の中の私の黒目は光り、顔の陰影がくっきり現れている。

淡い照明の通路を抜けて、フロアへもどる。

ラテンジャズの軽快なリズムとトランペットの情熱的なソロでフロアは熱気が満ちてきている。

南国の花と料理でテーブルも色づいている。

そろそろだわ。

感じる、あの気配を。

大きな獣に睨まれたときのように、私の身体は硬直した。

いる…!あそこに……!

目線の先の淑女が動くと、ぎらぎらと主張する真っ黒なモーニングを着た奴の姿。

瞬間、私の眼のライトがパチンと消え、私と彼だけにスポットライトが当てられる。

嗅覚、聴覚も研ぎ澄まされて唯一点、彼捕らえる。

私の足の爪が地面を捕らえ、ゆっくりと蹴り、玉虫色に眼は光る。

彼は私の方をジロリと見た。

一瞬の交信。

私の感情はすべて読み取られ目の前が虹色に渦を巻いた。

虹色の渦が7つ眼前に浮かび、その中央で男が高笑いをしている。なんとしてもやりとげなくてはならないのに…なのに…

男はパーティーの華として、人々の称賛や眼差しを受けていた。私はかろうじて立って、シャンパンを気付けに飲んだ。

男は人並みから抜け、奥の通路の方へと向かっていた。

チャンスであるが、ここで仕留められなくてはこちらが殺られる。しっかりしなくては、と私は深呼吸していずまいを正した。