知ってた
壁から壁へロープをはって、椅子を等間隔に置く。
その上へタオルケットをのせて洗濯ばさみでとめる。
タオルケットの中へはいると、椅子の柱のあるおうちの出来上がり。
キッチンセット、おもちゃのごはん、おかね、ぬいぐるみ達を配置して、生活の始まり。
おはよう、今日のごはんはトマトです、はいどーぞ。
従妹たちと生活をおくる。
ここに洗濯ばさみで紙をとめて、ここにはお花を飾って、土台を作れば二階の物置の出来上がり!
生活の工夫をこらし、夜の時間で寝転んで見上げる花柄のタオルケットの天井にときめき、いつまでもこうやって遊びたいと思った。
思えば何も変わってなかった。
親元を離れて、生活の工夫をこらして、安心して暮らしたい。私の願いはそれだけだった。
自分の名前で社会で勝負したり、きらきらと着飾りたいという願いはもちろんあるけれど、小さなことだった。
言葉にしなくても、その楽しさを私は肌でわかっていた。
それから、初潮がきて、塾に通いはじめて、男子が変わってしまって、各種入卒業式をくりかえして、苦い恋もして、やっぱり何も変わってなかった。
調味料はたくさんほしいな、たまにはお花も飾りたい、デパ地下グルメをいっぱい食べたいし、でっかいソファに沈み込みたいな。
生活する楽しさを人間は本能で知っているんだわ。だから子どもの頃、狂ったように遊ぶんだわ。
私は本当によくわかってしまった。
本当のおままごとを、私はこれからどんな人とするのだろう。
生活の工夫をいっぱいにして、たくさんの生々しい生きてる楽しさの形跡を残して離れがたくなれたら、良いな。